恋口の切りかた
五、伊羽青文失脚
【円】
その日、評定役から突然呼び出しがあった。
何事かと訝りながら登城した俺を待っていたのは、評定所内で青文と対峙する海野清十郎だった。
「盗賊改め方の仕事だ、円士郎殿」
固唾を呑んで──というよりは、
見物(みもの)だという様子でその場で繰り広げられている光景を眺める他の者たちの前で、
清十郎は青文を示して朗々とした声で言った。
「この者を捕らえよ」
恐れていた事態だった。
清十郎が闇討ちなどという手段ではなく、
鎖鎌の兵衛を証人に立てて、
帯刀の言うように、堂々と正面切って青文を告発するという行動に出た場合──
──その行為自体を阻止する方法はないのだ。
「この者は、盗賊の身でありながら殿や家中の者を欺き、執政の座に居座り続けた大罪人だ! 異人の血を引く覆面の下の素顔こそが動かぬ証拠!」
とは言え、突然こんな世迷い事を口にして家老の身分にある者をどうにかしようなどと、
本来は無理がありすぎる真似のはずなのだが──
好々爺の藤岡仕置家老が、
「ほほう。それが事実ならば由々しき事ですなァ」
と面白そうに笑いを浮かべた。
「どうなのですかな、伊羽殿」
菊田水右衛門が冷笑を湛えたうつろな目を青文に向ける。