恋口の切りかた
「お断りする」

青文はきっぱりとそう言って、

「ならば致し方ない」と、清十郎がこちらを向いた。

「円士郎殿、我らでは恐れ多い。御家老様の覆面を取っていただけますかな」


げえっ!?

俺を呼んだのはこのためかよ!


「無礼な!」

青文が怒鳴った。

それでも清十郎は引き下がらず、

「もしもその下から我らと同じ黒い髪の人間の顔が現れたならば、この非礼詫びましょう。
私への御処分もいかようにでも」

涼しい顔でそう言って、俺に向かって「円士郎殿」と繰り返した。


くそ、どうすんだよ……!


俺は、見えない青文の目に無言で訊いた。


この場で素顔をさらしちまっていいのか?

何か対策があるか?


それとも本気で──





甘んじて受ける





その言葉が蘇った。

冗談じゃねえぞ……!


奥歯を噛みながらも、俺は前に進み出ることしかできなかった。
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