恋口の切りかた
平司は道場で再び私に敗れた一件以来、
漣太郎の言葉を素直に受け入れて真面目な謝罪をした後、

「姉上には今後、女ではなく一人の武芸者として教えを請(こ)いたい。
どうか未熟な私めにご指南のほどを」

などと言ってこれまた真面目に、道場で稽古相手を願い出てくる。

養子の私に敬意を払いすぎているような気もするし、
こうして町を探し回る間にも、これはだめ、これは気をつけろと──

うーん、ちょっと堅苦しくって苦手だなぁ……。




ブツブツ文句を言っている平司や、貸元の子分さんたちと一緒に、

すぐさま、漣太郎が暴れていたという場所に向かって──


「あァん!? てめェ、なんだその言い草は! ふざけんな!」


路地の奥から聞こえてきた、耳になれた怒声に
私と平司は脱力しそうになる。



おそるおそる、商家の蔵の白い壁を曲がってみると、

そこには予想通りの光景──のさらに上を行く光景が待っていた。


「黙って聞いてりゃ、好きほうだいぬかしやがって!」


何やら激昂している漣太郎が、わめきながら木刀を突きつけている相手は──




三毛猫を抱いてぷるぷる震えているかわいい女の子だった。
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