恋口の切りかた
「エン……?」


その場に飛び込んできたか細い声に、凍りついた。


「ここで、その女の人と何やってたの……?」


震える声でそう言いながら、
男装した少女が霧夜の後ろに立って、部屋の中の俺と女を見つめていた。

「るるるるる留玖!?」

こちらを映す瞳は涙をいっぱいに溜めていて、俺はうろたえた。

「こ──これは──」

「あら、あなた女ね。どなた?」

着付けを終えた美女が、薬の風呂敷包みを手にしながら留玖に笑顔を向けて、

留玖の肩がびくっと震えた。

「わ……私……」

下を向いた留玖の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「る、留玖──」

俺は飛び起きて、彼女に駆け寄ろうとして、

「減点ね」

女が俺のほうを振り向いた。

「こんな可愛い子がいるのに──悪い坊やだこと」

女は切れ長の目で軽く俺を睨めつけて、

すたすたと座敷を横切って、窓際に歩み寄った。


「でも、楽しませてもらったから一つだけ答えてあげようか」

女は窓に足をかけて、部屋の中を振り返って、


「私の名は、月乃。でも──よく知られている別の名は」


ニィ、と血のような色の唇が笑って、



「真野断蔵」



名乗ると同時に二階の窓から身をひるがえし、

黒無地の着物の袖を最後に視界に残して、女の姿は消えた。
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