恋口の切りかた
「さて、ご舎弟。この旦那ァ動けねェうちに、どうしやショ」

「そこらの筵(むしろ)でスマキにでもしてくれ」

「てめェらァ──ッ!」

子分さんたちと平司が漣太郎を見下ろして
そんな相談をしている横で、


しがみついたまま少女はうるんだ瞳で私を見つめた。

「鬼のような恐ろしい狼藉者から守っていただいて……本当にあぶないところを、ありがとうございました」

…………。

「だッ──誰が鬼のような恐ろしい狼藉者だァっ」

本当に言葉通りスマキにされながら、漣太郎が不満そうに怨嗟(えんさ)の遠吠えをした。


レンちゃん……。


大事な約束を反故(ほご)にして女の子をいじめていたなんて
同情の余地は全くないけれど、


……何だかちょっと気のどくになってきたよ。


私はその子に、確かめてみる。

「あの、ひょっとして大河様のご息女の……」

「まあ、どうしてご存じですのん?」

猫を抱いた少女は、おっとりした愛らしい仕草で首をかしげた。

しゃらん、と少女の髪で飾りが涼やかな音を立てて、

なぉん、と抱っこされた猫も同じように首をかしげる。


やっぱり。

「私は結城家から──」
「まあ!」

私の言葉をさえぎって、少女は思い出したように声を上げた。
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