恋口の切りかた
「そうでした! わたくし、父上と結城様のおうちに向かうところでしたのに」

何だかのんびりした子だなぁ、と思って私はちょっと苦笑した。

「お父上も心配されていますよ。一緒に屋敷に参りましょう」

え? と不思議そうな顔をする大河家のお嬢様に、私は微笑んで名乗ろうとした。

「私どもは結城の──」

「まあ! ではあなたが!」

再びさえぎられて私がきょとんとすると、

お嬢様は頬を紅潮させ
きらきらした瞳に私を映した。

「幼い頃より剣の達人だとお聞きしておりましたもの」

「はあ……」


そしてお嬢様は男の格好で木刀を振るった『私に向かって』、

とんでもないことを宣った。





「あなたがわたくしのお婿(むこ)様になる、漣太郎様ですのね」





え──?





にこりと、花のような笑顔を見せて、少女は名乗った。


「申し遅れました。

わたくし、漣太郎様のところにお嫁に参ります──大河余左衛門の娘、風佳と申します」




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