恋口の切りかた
「風佳殿は、兄上の許嫁(いいなずけ)です」
平司が説明している声が、なんだか遠くに聞こえた。
「大河家はずっと男児に恵まれなかったそうですが、去年ご長男が誕生されました。
それですぐ、去年のうちに──以前より親睦(しんぼく)の深かった我が結城家に
長女の風佳殿をというお話が決まったのだそうです」
私も初顔合わせが今日とは知りませんでしたけど、と平司は言った。
「初めまして。漣太郎の弟の平司です」
「まあ、平司様。どうぞよろしく」
平司が名乗り、『ふうか』という名前の少女がふわりと会釈(えしゃく)した。
その様子は、木刀を握りしめている自分なんかとはぜんぜん違っていて、
生まれついての武家のご息女の品格に満ちていて、
とてもとても優美で美しく──
格式高い結城家の次期当主に
大層ふさわしいお相手だと思った。
なーん、とお嬢様の腕の中で
うなずくように猫が鳴いた。