恋口の切りかた
四、男装
【剣】
「漣の字の旦那ァ、将来の嫁さんになるお嬢さんに狼藉を働いたんで?」
「そりゃァ、いけませんや。ぶんなぐられてスマキにされて当然でサ」
「ふざけんな! 相手の顔なんざ今日まで知るか!
っていうか狼藉も働いてねえだろ! 未遂だ未遂!」
子分さんたちにかつぎ上げられて、
屋敷に向かってエッホエッホと運ばれながら
漣太郎がぎゃーぎゃーさわいでいる。
「まあ、どうしてその無礼者までお屋敷に? ああ、結城様や父上に成敗していただくのかしら」
私の腕につかまってその横を歩きながら、
風佳というお嬢様はこわごわという様子でそんなことをつぶいた。
「聞こえてんだよ、黙れこのアマ! 成敗されてたまるかッ!」
二人の言い分を合わせると──
あの路地で町の子供数人が猫をいじめているのを見つけた風佳が、
猫を助けようとして
町の子供らにからまれているところを
通りかかった漣太郎が、
木刀で子供らをボコボコに叩きのめして助けてあげたらしい。
しかしその時点で風佳の恐怖の対象はすでに、
逃げ去った町の子供から、
鬼の形相で目の前に立ちはだかる漣太郎に移っており、
寄るな近づくな誰か来てくれ殺されるとさわぎたてた。
助けてやったのにその態度は何だと
激怒した漣太郎が木刀を突きつけたところで、
私たちが駆けつけた──
──ついでに言えば
その悪漢から私が風佳を救った──
ということらしかった。