恋口の切りかた
このままではあんまりだということだろう。


父上は、風佳に屋敷の中を案内してあげるようにと私たち三人に言いつけ、

新しく城代家老になったイバ家の誰某がどうのと、大河様と難しい会話をされ始めた。




そして。


「──最低ですね」

「そうだね……」

平司と私は口々につぶやいた。

漣太郎の姿はない。


この挽回(ばんかい)の機会すらも放り出して、再び漣太郎は姿をくらましてしまっていた。


しかたがないので今は、
私と平司の二人で庭の池を見せてあげているところだった。


「まあ、第一印象がすでに最低でしたからね」

池をのぞきこんでうつむいている風佳に、平司はそう言って、

「本当に兄上が大変失礼をしました」
と、ていねいに謝った。


本当に平司はしっかりしてるなぁ、と私は感心してしまう。

漣太郎とはエライ違いだ。
やっぱり兄があんな性格だと、弟はこうなるのかな。


「いえ、こちらこそ失礼なまねをしてしまいました」

そう答える風佳は、まだ目を赤く腫(は)らしている。


そんな風佳と並んで池に映った自分の影を見て、
私はなぜか悲しくなってしまった。
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