恋口の切りかた
正装して、
深々と頭を垂れて、
そこにいた凛々しい若者は……見間違えるはずもない。



たった数日離れていただけで、懐かしさに涙がこぼれそうになる。




エン──。




どうして、どうして……ここに円士郎が──?



必死に涙をこらえながら、私は円士郎から視線を外して、前を向いて、



「殿が、留玖と誰かを立ち合わせてみたいが、万一城の者と試合をしてお前に怪我でもさせたらことだと仰ってな」


父上が、私と円士郎のほうを見て、どこかつらそうに顔を歪めながら静かに言った。


「そんな心配は無用だと言ったのだが──ならば、何度も手合わせをしている円士郎ならば問題なかろうと儂から薦めた。

殿は、円士郎の腕前も前から見たがっておいでだったから、ちょうど良い機会だと思ってな」


私は、震える手をぎゅっと握って、


「さっそく二人とも支度をいたせ。円士郎、楽しみにしておるぞ」


お殿様が私の後ろに向かってそう言って、


「はっ」


泣きたくなるほど恋しい声が、私の背後から答えた。
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