恋口の切りかた
諦めようと思ったのに──

諦めなくちゃと思ったのに──



エン……

エン……エン……



頭の中は愛しい人の名前でいっぱいで、


稽古着に着替えて、

父上がお殿様に剣の指南をする時にも使うという、土の均された稽古場に案内されて、

お互いに一刀の木刀を手に、円士郎と向かい合って立っても──


こんな精神状態で、まともな試合なんてできないよ……。


私はそう思ったのだけれど、


「留玖、大丈夫だ」

変わらない優しい眼差しで、対峙した円士郎が言って、

「いつもどおりにやるぞ」

力強い声と笑顔が、私の心を真っ直ぐに立たせてくれた。


稽古場の場所は、お城の座敷と渡り廊下に囲まれた中庭のような場所で、


判定役の父上が、一段高い室内に座ってこちらを見下ろすお殿様を見上げて、お殿様が頷いて、


「始め」

と、父上の声が響いた。
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