恋口の切りかた
「それまで!」

父上の声がする。

私の木刀の切っ先を、喉元に突きつけられて、

「まいりました」

円士郎が木刀を引いて、一歩下がり、礼をした。


彼の姿を見つめたまま、肩で息をしている私に、


「素晴らしい! さすがじゃ! 二人とも、さすが結城家の子に相応しい試合であった!」


いつの間にか腰を浮かせて身を乗り出していたお殿様の、絶賛の言葉が届いた。


ゆっくりと私も木刀を下ろして、


父上が私たちのそばを離れてお殿様のほうへと歩いて行き、
横で円士郎が膝を折って、お殿様に礼をとった。

私も慌ててそれに習う。


「円士郎。次は私とも手合わせに来てくれ」

「は。殿の命とあらば、いつでも」

お殿様の言葉に円士郎がそう答えて、

「いや、それにしても留玖は強いの。
晴蔵に天童と言わしめる腕──おなごとは思えぬ。

敗れたとは言え、そんな彼女相手にここまで打ち合える円士郎も、さすがは兄じゃな」


兄──。

その単語は、どうしようもなく開いてしまった私と彼の関係を改めて突きつけているかのようで、私は膝をついて頭を垂れたまま、唇を噛んだ。


「円士郎、良き試合を見せてくれた褒美をとらせようぞ。何か望みがあれば、申せ」

お殿様はそんなことを言って、

「ならば、一つだけ望みがございます」と、私の横で円士郎が言った。

「控えよ、円士郎」と、父上がやや強い調子で、遠慮するようにという意味合いの制止の言葉を口にしたけれど、

「よい、よい。何なりと、申せ」

お殿様は気さくにそう言って、

「私の望みは、妹のことにございます」

円士郎の口から飛び出した言葉に、私は思わず横を見た。
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