恋口の切りかた
お殿様が、静かに頷いた。
「留玖は、我が守り役でもあり師でもあるそなたの父、晴蔵より賜りし娘。
私も格別の寵愛を注ぐことを約束しよう。何も心配しなくて良い」
「は。有り難き幸せ」
円士郎が頭を垂れて、
「妹思いの優しい兄を持って、留玖は幸せじゃな」
お殿様の言葉で、我慢しきれずに涙がこぼれた。
頭を下げたまま、私はごしごしと稽古着のごわごわした袖で涙を拭って、
横で、大好きな人が立ち上がる気配がした。
「エ……エン──」
弾かれたように立ち上がって、幾度となく繰り返してきたように彼の袖を握った私に、
円士郎が振り向いて、温かな──
悲しそうで、
切ない微笑みを浮かべた。
「どうかお元気で、留玖様」
留玖──「様」──。
出会ってから初めて、彼は私を尊称で呼んで、
そっと私の手をふりほどいて、私に頭を下げて背を向けて──
終わったんだ……。
去っていくその愛しい背中にはもう、手が届かなくて、
受け入れざるを得ない現実を前に、私はその場に崩れ落ちて、声もなく泣いた。
「留玖は、我が守り役でもあり師でもあるそなたの父、晴蔵より賜りし娘。
私も格別の寵愛を注ぐことを約束しよう。何も心配しなくて良い」
「は。有り難き幸せ」
円士郎が頭を垂れて、
「妹思いの優しい兄を持って、留玖は幸せじゃな」
お殿様の言葉で、我慢しきれずに涙がこぼれた。
頭を下げたまま、私はごしごしと稽古着のごわごわした袖で涙を拭って、
横で、大好きな人が立ち上がる気配がした。
「エ……エン──」
弾かれたように立ち上がって、幾度となく繰り返してきたように彼の袖を握った私に、
円士郎が振り向いて、温かな──
悲しそうで、
切ない微笑みを浮かべた。
「どうかお元気で、留玖様」
留玖──「様」──。
出会ってから初めて、彼は私を尊称で呼んで、
そっと私の手をふりほどいて、私に頭を下げて背を向けて──
終わったんだ……。
去っていくその愛しい背中にはもう、手が届かなくて、
受け入れざるを得ない現実を前に、私はその場に崩れ落ちて、声もなく泣いた。