恋口の切りかた
七、謀反人
【剣】
格別の寵愛を注ぐ。
そんな約束なんていらなかった。
ただ、円士郎のもとへ帰してほしかった。
でも私の思いには関係なく、円士郎に語ったその言葉通り誠実に、お殿様はその日の夜のうちに私のもとを訪れた。
夜のお相手をするようにと周りから言われて、
身を清めて、綺麗な寝間着を着せられて、髪を丁寧にすいてもらって、
閨(ねや)の中で、私は震えながらお殿様を待った。
唇を血が出そうなくらい噛みしめて、
膝の上で真っ白になるほど握りしめた拳を見下ろして、泣きたくなるのを抑えて、
「留玖」
声がかかって、心臓が凍りつくのを感じながら顔を上げた。
私の前に立っていたお殿様は、
さすがに昼間のような女武者姿ではなくて、寝間着姿だったけれど、やっぱり背もそんなに高くなくて、柔らかい面差しは女の子のようだった。
私は布団の横で、頭を下げて平伏したまま動けなくなった。
「留玖、顔を上げよ」
お殿様の声がかかったけれど、体が震えて、動かない。
私……私、どうしてこんな場所にいるんだろう。
そんなことを考えて、
エン……エン……
ここには現れてくれるはずのない、愛しい人の名前を何度も心の中で繰り返して、
「緊張しておるのか?」
耳元で囁かれて、びくっと体が強ばった。