恋口の切りかた
「ふう。まったく、カンベンしてくれ。
俺だってこんな場面を城の者に見つかったら、何を言われるか……」
お殿様は私を抱っこしたまま歩き出して、大きな溜息を吐き出した。
俺?
ここでようやく私は、
先程からずっと、お殿様が随分と砕けた口調で話していたことに気づいた。
これまではずっと「私」とか「……じゃ」とか、そんな喋り方をしていたのに。
「あ、あの……自分で歩きます。降ろして下さい」
華奢に見えたのに軽々と私を抱え上げているお殿様を見上げて、私は少し驚きながら言った。
やっぱり男の人だからか、意外と力があるんだなあ、と思って、
父上が直々に武芸の指南を行っているのだから、当然なのかもしれないということに思い当たった。
「駄目だ。また逃げ出されても困るしね」
お殿様はあっさりと私の申し出を却下して、
「『好いた相手』でなくて悪いけど、しばらく大人しくしててくれるか?」
続けて放たれた言葉に、私は凍りついた。
お殿様の顔を見上げると、無表情で──怒っているのかどうなのか、まったくわからなかった。
俺だってこんな場面を城の者に見つかったら、何を言われるか……」
お殿様は私を抱っこしたまま歩き出して、大きな溜息を吐き出した。
俺?
ここでようやく私は、
先程からずっと、お殿様が随分と砕けた口調で話していたことに気づいた。
これまではずっと「私」とか「……じゃ」とか、そんな喋り方をしていたのに。
「あ、あの……自分で歩きます。降ろして下さい」
華奢に見えたのに軽々と私を抱え上げているお殿様を見上げて、私は少し驚きながら言った。
やっぱり男の人だからか、意外と力があるんだなあ、と思って、
父上が直々に武芸の指南を行っているのだから、当然なのかもしれないということに思い当たった。
「駄目だ。また逃げ出されても困るしね」
お殿様はあっさりと私の申し出を却下して、
「『好いた相手』でなくて悪いけど、しばらく大人しくしててくれるか?」
続けて放たれた言葉に、私は凍りついた。
お殿様の顔を見上げると、無表情で──怒っているのかどうなのか、まったくわからなかった。