恋口の切りかた
「ふう。まったく、カンベンしてくれ。
俺だってこんな場面を城の者に見つかったら、何を言われるか……」


お殿様は私を抱っこしたまま歩き出して、大きな溜息を吐き出した。


俺?


ここでようやく私は、
先程からずっと、お殿様が随分と砕けた口調で話していたことに気づいた。


これまではずっと「私」とか「……じゃ」とか、そんな喋り方をしていたのに。


「あ、あの……自分で歩きます。降ろして下さい」


華奢に見えたのに軽々と私を抱え上げているお殿様を見上げて、私は少し驚きながら言った。

やっぱり男の人だからか、意外と力があるんだなあ、と思って、

父上が直々に武芸の指南を行っているのだから、当然なのかもしれないということに思い当たった。


「駄目だ。また逃げ出されても困るしね」

お殿様はあっさりと私の申し出を却下して、


「『好いた相手』でなくて悪いけど、しばらく大人しくしててくれるか?」


続けて放たれた言葉に、私は凍りついた。


お殿様の顔を見上げると、無表情で──怒っているのかどうなのか、まったくわからなかった。
< 1,892 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop