恋口の切りかた
再び閨へと戻されて、

お殿様は私を布団の上に降ろして、


「まさか、初っ端から逃げ出されるとはな。俺も初体験だ」


肩をすくめて首を振った。


「あ……あの、もう逃げません……」


私は、自分がしでかしたことの重大さと、父上や円士郎にもお咎めがあるかもしれないという恐怖に震えながらそう言って、


「もう、大丈夫ですから、だから……」

「円士郎には類が及ばないようにしてほしいって?」


お殿様の口に上ったセリフに、目を見開いた。


最初に口にされて然るべき、父上の名前がなかった。


どうして、円士郎の名前だけが──

考えて、「好いた相手」という先程の皮肉っぽい響きが思い起こされて、背筋がすうっと冷えた。


「ふうん、でも大丈夫って言うなら、続きをしようか」


え……

冷たい口調で言うなり、お殿様は再び私を布団の上へと押し倒して、

首筋に手が触れて──


「……どこが、大丈夫なんだ? まったく……」


私の顔を覗き込んで、柔らかい面差しが苦笑した。
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