恋口の切りかた
一人になって、
布団の中に横になって

私はホッとした反面、
自分がわがままを押し通して、物凄く非常識な真似をしてもらっている気がして──罪悪感が押し寄せた。


冷静に考えると、帯のほどけたまま奥御殿を走り回って逃げたなんて──

円士郎のことで頭がいっぱいだったとは言え、なんて恥ずかしい真似をしたんだろうと思って、


次の日、先代の殿の奥方である春告院様に会って、「昨夜はいかがでしたか?」と聞かれて、何と答えていいのかわからずに思わず赤くなってうつむいてしまった。

そうしたら、春告院様はそんな私の態度を見て勘違いした様子で、満足そうに頷いて、

「留玖には、殿のお世継ぎを生んでもらわねばなりません。
しっかりかわいがってもらいなさい」

なんて仰って、私はますますなんと答えていいのかわからなくなってうつむいた。

春告院様は、ホホと笑って、

「殿も大変ご満足された様子で、かわいかったと仰っていましたよ」

と仰って、私は「えっ」と驚いて顔を上げた。

春告院様はそのまま立ち去ってしまわれて、ふと、このとき近くを通りかかった殿の姿が目に入って、

彼は片目を瞑ってにやりとして、私に向かって頷いて見せた。


この人と私の「取り引き」は、こうして成立したのだった。
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