恋口の切りかた
親父殿に朝晩の稽古をつけてもらうようになっても、満たされない気分は続いた。

このことを自慢できる相手も
悔しがってくれる相手も、
喜んでくれる相手も、

もう隣にはいない。

そう思うと、張り合いがないような──やはり胸がすうすうするような、つまらない気分だった。


同時に、
離れてしまった留玖のためにもしっかりしねえと……という気持ちも働いていて、


俺は埋まらない心の空白を何とか埋めて前に進もうと、稽古や役目に没頭して──


「なんつうかよ、あんた最近……トゲトゲしてるよな」

役宅で闇鴉の一味について何かつかめたことはないかという話をしていたら、隼人にそんなことを言われた。

「トゲトゲ?」

「っつうか、こう殺伐としてるっつうか……丸いところがなくなったっつうか……刃物みたいな感じっつうか……やっぱりトゲトゲ?」

隼人は何やら意味不明に近い内容を口にして、

「役目にも真面目だし、前より何となく侍らしくなったとは思うんだけどよ」

「なら、いいことなんじゃねーか」

「いやまあ、そうなんだけど……なんか前にはあったモノがなくなってねえ?」

わけのわからないことを口走ってから、狐目の侍はしまったという表情を作った。

「や、その、おつるぎ様が殿のおそばに上がって……いなくなったっつうのはわかってんだけど……」

俺の逆鱗にでも触れると思ったのか、隼人は気まずそうになって、

「──ああ。あんたが何を言いてえか、なんとなくわかった」

俺がそう言って苦笑したら、びっくりしたように細い目を丸くした。



俺も隼人と同じでうまく言葉にはできないが──


たぶん……俺の中にあった柔らかい何かが、留玖と一緒に失われてしまったのだと思う。
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