恋口の切りかた
背中が冷える。


俺たちの関係がバレたからと言って──

それだけでは何か咎めがあるとも思えなかったが、奥に上がった留玖がそのせいでつらい目に遭わされるのだけは絶対に避けたかった。


「彼女が──何か言ったのか?」

警戒しながら訊くと、左馬允からは「俺が聞き出したんだ」という答えが返ってきて、

俺は嫌な汗が滲むのを感じた。

「晴蔵も相当、彼女を奥に上げるのを渋っていたしね」

親父殿が?

俺は驚いて、


「すまない──許してくれ」


殿様の口から放たれた謝罪の言葉を耳にして、更に驚いた。


「俺もやむを得ずに命じたこととは言え──

この間の、試合の後のお前の言葉からは、並々ならぬ覚悟が感じられた。

あんなに想っている相手と引き裂かれるなんて、さぞかし俺を恨んでるだろう?

理不尽に恋仲の者同士を引き離して、己の色欲を満たすために奥へと召し上げるなんて暴君の行いだ」


俺は頭を下げる殿様を穴が開くほど眺めて、


苦笑いした。


「あんたのことは、恨んでねえよ」

「でも──」

「あんた、凄えな」

「え……?」


俺は、自分より年下の家臣にこんなことで頭を下げた主君の姿に感心しながら、近くの池を見下ろした。
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