恋口の切りかた
「自分の女のそういう関係を知ったら、気分を悪くするところだろ。
それを、相手の──俺みたいな男に謝るなんてよ。さすが、親父や青文が仕えてる殿様だよな」


何かが吹っ切れたような気がしながら、俺は池のそばに座り込む。


「確かに、あんたが大切にしてくれるなら、留玖も幸せになれる気がするよ」

「え? いや、俺は──」

慌てた様子で何事か口にしようとする殿様を見上げて、「心配すんなよ」と俺は笑った。

「あんたのことは恨んでねえし、これからも恨む気はねえよ。
この国も、あんたも──何があっても俺は守る。

それが、彼女の幸せを守ることに繋がるなら、命懸けでこの国とあんたに仕えてやるよ」


だから──と、言葉を繋げながら、俺は立ち上がって殿様に向き直った。


「留玖のことを頼む。俺の代わりに、どうかあいつを幸せにしてやってくれ」


少し色の薄い、茶色がかった瞳を真っ直ぐに見つめて言うと、

左馬允は少し顔をしかめるようにして俺を窺い見た。


「留玖のことはもう、過去にしたということか」


過去に──?


えぐられるような鋭い痛みが胸に広がって、俺は両手を握りしめた。


「過去に──できるかよ」


また数え切れない少女の笑顔が脳裏に浮かぶ。


「そんなに簡単に、諦めたりできるわけねえだろ……!」

「だったら──」

「でも、仕方のねえこともある。そのくらい俺だってわかってんだよ……!」


胸の痛みと戦いながら、俺は左馬允に向かって笑いかけた。


「留玖を頼む。

その代わり、あんたとこの国を──俺は死ぬまで守る」
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