恋口の切りかた
淡い記憶が浮上した。


年上のこの男に、幼い俺が何か無礼なことを言って、

それを柔らかい笑顔が許してくれる。


そんな場面だった。


「あれ? でも……あんたの齢って俺より一つ上だよな?」

「そうだが……?」

「ふうん、じゃあやっぱりあれ、あんたじゃなかったのかもなァ」


記憶の中で俺を笑って許してくれた人は、俺よりもっとずっと年上で──

そのことが、幼い俺には悔しかったような──


「記憶が確かなら、俺が五、六歳で……そいつは十か、それより上の齢だった気がするし。

たぶん別人だな。悪ィな、変な話して」


そう言って笑った俺に、


「いや……構わないよ……」


掠れた声でそう言って微笑んだ若者の顔が、どうして真っ青になっていたのか、
俺にはわからなかった。
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