恋口の切りかた

 【剣】

殿から、今日城に円士郎を呼んで話をすると言われて、

どきどきしながら待っていた私に、


「ごめんよ留玖。円士郎にまったく切り出せなかった……」


その日の夜、閨に現れた殿はややぼう然としながらそう言った。


「えっ……!? まったく──ですか?」

衝撃を受ける私に、
はああ、と殿は大きな溜息を吐いて、

「あんなにハッキリと身を引く覚悟を見せつけられると、俺もね……」

困った様子でそう言った。


私が逃げ出した初めての夜、
この人は私に「取り引きをしないか」と持ちかけて、

その後──




「この先、お前の閨に夜、円士郎が忍んで来ることを許すよ。

その代わり──

奥の他の者に対しては、留玖が円士郎と会う夜は、俺がここに来ていたということにしておいてほしいんだ」




そんなことを言ってきたのだった。
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