恋口の切りかた
私は息を呑んだ。

「では……では、左馬允様が、私の所にいたことにしてほしいと仰るのは、そのお相手の所へ忍んで行くため……だったのですか」

はたと思い当たる。

「この前の晩、私の所から去った後も、左馬允様は……」

「鋭いな」

殿は苦笑して、

「だから、幼なじみの義妹に思いを寄せている円士郎が──俺には他人事とは思えなかったんだ」

柔らかな表情のままでそう語った。


幼なじみの義妹。


その単語を聞いて、私の脳裏には一人の姫君が浮かんだ。


「左馬允様のお相手というのは、その……」


殿の義理の妹と言えば──


殿は頷いて、苦しそうな目でその名前を口にした。




「初名だよ」




私は驚きに目を見張った。

初姫様……。
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