恋口の切りかた
彼が殿に気に入ってもらえたのは嬉しいけれど、


やっぱりもう、円士郎には会えないのかな。


そう思って、しょんぼりと肩を落として、

「ごめん、ごめん」

殿が私の様子を見て、慌てて謝った。

「なんとか伝えてみるよ」

「いえ、私こそ、こんなわがままで非常識なことを……ごめんなさい」

私は無理矢理に笑おうとした。

「大丈夫です。急いだりしませんから……もしも、もう一度エンに会えるなら──私はそれだけで……」

自分でも段々声が小さくなるのがわかった。


エンに会いたい……。

すぐにでも会いたいのに……。


「そうか」

殿は微笑んだ。

「留玖はいい子だな。
でも、あまりのんびりもしていられないかもな。円士郎だって、いつまでも独り身でいるとは限らないわけだし」

「…………」

そうなんだ。

私はぎゅっと、膝の上に置いた手で寝間着をつかんだ。

円士郎に、いつまた縁談があるとも知れない。


「そんなに暗い顔するなよ」

殿は可笑しそうにそう言って、ひょいと立ち上がった。


「それこそ昼間の様子だと、まあ当分は大丈夫そうだったから。
あいつ、まだまだ留玖に惚れてるよ。

留玖のために、死ぬまでこの国や俺を守るって言ってたんだぜ」


私の胸はドキドキと音を立てて、
私のほっぺたは熱くなって、

そんな私を見下ろして目を細めて、殿はこの日も私の閨を後にした。


今夜はその行き先が私にもわかった。
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