恋口の切りかた
側室となった後も、私は奥の剣術指南を続けていた。

もっとも、指南と言っても、別式女や奥の人たちの稽古相手をするくらいだったけれど。


翌日、

いつものように別式女の人たちと稽古をしていたら、急に周囲の人たちが頭を下げて礼を取って──

何だろうと思ったら、


「留玖殿、わらわにも稽古を」


そう言いながら稽古場に顔を出したのは、
綺麗な着物をたすきがけにして鉢巻きをした、すらりと背の高い女性だった。


「初姫様──」


と、別式女として奥に出仕していた時から何度も顔を合わせていたそのお姫様の名前を私は口にした。


殿よりは年上で、御年は今年で二十四。

別式女の人たちや私のように男装すれば、凛々しい若武者に見えるに違いない。

そんな、きりっとした印象のこの女の人が、殿の思い人だと昨夜聞かされた初名様だった。


しばらく、その美しい姫君の稽古相手をして、女性にしては力のあるしっかりした打ち込みを受けて──

それから、

場所を移動して、人払いされた庭を二人で歩きながら

「すまぬな」

と、初姫様は唐突に私に謝って、
何のことかわからずに、私はびっくりしてしまった。


「殿から──わらわと殿の仲については聞いたであろう?」

「はい」

私がおずおずと頷くと、

「わらわは体に……問題があってな」

どこからどう見ても健康そうに見えるお姫様はそんなことを言って、
首を傾げる私に向かって悲しそうに笑った。
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