恋口の切りかた
「匙(さじ*)から、子は産めぬと言われた。

どんなに望んでも、この忌まわしい体で殿の側室にはなれぬ」


血を吐くような告白に、私は凍りついた。


子供が産めない──。


殿の側室になることはともかく
確かに、初姫様に未だに縁組み話が全くないことは不思議だったけれど、


まさか──そんな……


知らなかった。


「留玖殿は心根の優しい娘じゃ。
わらわは──留玖殿のような方が殿のおそばに上がって、殿のお子を成してくれたらと思うたのだが……すまぬ」


初姫様はまた謝罪を繰り返して、


「留玖殿と円士郎殿のこと、殿から聞いた。本当に申し訳ないことをした」


と、言った。


思ってもみなかった不意打ちの話題に、涙がこみ上げてしまった。

必死に我慢して、私は何とか「いいえ」と言った。


初姫様はそんな私の様子をじっと見つめて、溜息を吐いた。


「思い人と添い遂げられぬつらさは、わかっているのにな。
留玖殿にまで、同じ思いをさせることになろうとは」


(*匙:ここではスプーンではなく、大名に仕える医者のこと。薬匙を使うので、「御匙」などとも呼ばれていた)
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