恋口の切りかた
ズキンと胸に痛みが走って、

私は首を横に振った。


「あのまま結城家にいても、私はエン……兄上とは添い遂げられない身ですから……」


肩を落とした私を見て、初姫様は不思議そうな顔をした。

「なぜじゃ? 円士郎殿と夫婦(めのと)になるのに、何か問題があったのか?」

「なぜって──私は、結城家に拾われた農民の子です……!」


何度も何度も、

これまで自分の中で繰り返してきた言葉を、私は唇に乗せた。


「御三家の次期御当主となる身分の方と夫婦になんて……そんな恥知らずなこと、考えられません……!

許されるはず……ありません」


泣きそうになる私を見つめて、

「それは円士郎殿がそう言ったのか?」

と、初姫様は言った。

「それとも、結城家の他の誰かが?」

「──そういうわけでは……ないですけど……」

私は記憶を辿った。

円士郎も
父上も
母上も
優しい家族は誰も、私が抱いたこの許されない思いのことで私を責めなかった。

「でも、でも……口に出して言われなくても、わかっています……」

だから、

「私は……兄上のおそばにいられるだけで……」


妹としてでも──何でもよかった。


幼い日に聞いた、あの

「幸せでありんす」

というりつ様の言葉が、今なら理解できる気がした。


円士郎が優しくしてくれるだけで嬉しかった。

ただ彼のそばにいられるだけで幸せだったのに──


こんな風に離ればなれになるなんて……
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