恋口の切りかた
「母上も姉上も、憐れんではいても──わらわの体のことはやはり厭(いと)わしく思ってらっしゃる。

しかし殿は違った。
この体を知っても、殿は変わらずにわらわに優しくしてくださった。

添い遂げられずとも、義妹として奥に住み、こうしていつもそばにいるのだから、それで良いではないかと、
お優しい殿はそう仰っているがのう」


美しい眉を切なそうに歪めて初姫様は溜息を落とした。


「無論──大名家の正室となることは、結城家などの家臣の妻になるということとはわけが違う。
江戸屋敷に住まねばならぬし、生まれ故郷のこの地を二度と踏めぬ(*)。

姉上は、それを大層嘆いて嫌がっておられた。

だが──それでも──わらわは、できることならば江戸におられる姉上と代わりたい。

たとえ、この地を遠く離れても、
殿とも一年置きにしか会えなくなるとしても……」


私は驚いて初姫様の顔をただただ見つめることしかできなかった。


「ただおそばにいて、幸せを与えてもらうだけの立場ではなく、
できることならば、正室としてお慕いする方の支えとなりたい。

留玖殿は、そう考えたことはなかったのか?

もちろんわらわとて、この体ではそれが許されぬこととわかってはおるがな」


(*大名家の正室:江戸時代、徳川幕府の人質として大名の妻子は江戸に住むことが定められていて、参勤交代で国元と江戸を往復する夫とは一年置きにしか会えなかった)
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