恋口の切りかた
それでも健康そうにしか見えない姫君は、ふう、とまた嘆息して、


「しかし、己が殿の子を成せぬからと、
気に入った娘に、本人の意向も聞かずそれを安易に委ねようとしたのは、わらわの弱さであった。

家老の海野殿からも強く薦められたこととは言え──留玖殿を奥に上げるかどうかは、もっとよく考えてからにすれば良かったな。

すまなかった……」


その口に上った名前に、私は冷たい水を浴びせられた気分になった。

海野殿──海野殿って……


「海野……清十郎様ですか? それは、どういう……?」


震える声で何とか聞き返すと、

「ああ、留玖殿も──それこそ輿入れを賭けて手合わせをしたのだろう?」

お姫様はにこにこと微笑みながら、なぜか事情を熟知した様子で言った。

どうして……
どうして、清十郎の名前をこんなところで聞くのだろう。

心臓が嫌な音を立て始めた。

「海野殿は、留玖殿の剣の腕や人柄を大層褒めていてな、
わらわや母上に、まずは別式女として奥に出仕させてみてはどうかと言ってきたのじゃ」

私はぼう然となった。

「それでわらわたちが気に入った素振りを見せると、すぐさま殿の側室にと強く薦められてな」


そんな──


まさか、私のこの側室の話が……

それどころか、原因になった奥への出仕の話までもが、清十郎の意図したことだったなんて──



ぞっとした。



氷のような清十郎の笑みと、

どんなことをしても私を円士郎のそばから引き離す、というセリフが蘇った。
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