恋口の切りかた
震え始めた自分の肩をぎゅっと抱きしめる私の隣で、初姫様は少し表情を曇らせた。


「藤岡仕置家老らの話では優秀な者ということで、海野殿はきっと殿の助けになる家臣だろうと、わらわも心を許しておったのだがな……

だが、伊羽殿の一件で殿とは対立していると聞く」


私は失脚した金髪の青年のことを思い出して、慌てて口を開いた。


「青文様を──伊羽様を、元の執政の座に戻してください……! あの人は、この国にとって必要な人です」

「わかっておる」


初姫様は頷いて、それから意外そうに眉を跳ね上げた。


「留玖殿は、伊羽殿とは親しいのか? 伊羽殿と円士郎殿は犬猿の仲と聞いておるが」

「あっ……ええと……それは、その……とても優秀な御家老様だという噂だったので……」


初姫様は少し首を傾げて、「ふむ?」と納得したようなしていないような声を出して、


「伊羽殿がいかに信頼の置ける大切な家臣かはわらわも、理解しておる。
この国にとってもそうであるし、
殿にとっても、伊羽殿はなくてはならぬ者だった」


姫君は深い深い溜息を吐いた。



「今の殿は片腕をもがれたも同然じゃ」
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