恋口の切りかた
今度は私が少し意外な気がして、首を傾げた。

青文が城代家老として、この国に必要な人間だということは承知していたけれど、
殿にとって片腕をもがれたも同然と言われるほどとは……


「何故ならば──今、左馬允様が殿としてこの国を治めていられるのも、全て伊羽殿のおかげだからじゃ」


初姫様はそう言った。


「十年前の改易騒動の折に、今の殿を擁立したのが誰であろう伊羽殿だということは、留玖殿も知っておろう?」


あっ、そうか、と私は納得した。


「もともと御三家の出でもある殿にとって、伊羽殿は後ろ盾とも呼べる存在じゃ。
先君の跡目を継いで以来、殿は伊羽殿を家臣の誰よりも信じ、頼ってきた。

その伊羽殿を失うなど、殿にとってもどれほどの痛手か──」

「だったら……すぐに蟄居を解いて、戻すことはできないんですか?」

「評定役の全員から反対されては、いかに殿と言えども──簡単に無視して伊羽殿を執政に戻すわけにもゆかぬ。
それでは家臣の反感を買う」

「そんな……」


私はがっくりして──



──何か、嫌な感じがした。
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