恋口の切りかた
青文が、殿にとって片腕だった……。


それをわかっていて、清十郎たちが彼を失脚させたのだとしたら──


「片腕……って……もう一つあるということですよね?」

私は恐る恐る初姫様に尋ねた。

「うん?」

「殿にとっては、もう一人──片腕と呼べる人がいるということですよね?」

「ああ」

初姫様は破顔して、

「もちろんじゃ」

「それって……」

「何を今さら言っておる」

わかりきったことだとばかりに、姫君は笑った。



「結城家に決まっておろう」



嫌な心音が、一際大きく鳴った気がした。



「そなたの父──晴蔵殿じゃ。
守り役として、殿が幼い頃よりずっと支えてくださった」



神崎邸で、円士郎たちが交わしていた会話の内容が脳裏に浮かんだ。


もしも清十郎が本当に、この国をどうにかするために隣国の氷坂家から送り込まれたのだとすれば──

そのために、殿の片腕である青文を失脚させたのだとすれば──


「次は円士郎の番だ」という話は、
そういう意味なのではないか。


殿にとって、残った片腕である──結城家を何とかしようということなのではないだろうか。
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