恋口の切りかた
私は──そんな風に考えたことはなかった。

どうして、そう考えなかったのだろう。


そう思って、


不意に、


春の桜の木の下で、
円士郎がその答えを私から必死に引き出そうとしてくれていて、

それが私に残された最後の機会だったことを、今さらのように思い知って──


これまで数限りなく重ねた円士郎との時間とやり取りの中で、
何度も
何度も
訪れていたその機会を私は、「許されないから」と逃し続けてきたのだと悟った。



「なあ、留玖」

「留玖は、どうしたいんだ?」

「俺と、どうなりたい?」



円士郎は、許されないことだとは決して言わなかった。



「違うだろ、留玖。
俺とお前は、ただ恋仲だっていう──それだけの関係だ」

「その先は?」

「許されない、って気持ちのほうがまだ、強いか」

「俺はまだ、お前のその気持ちに勝てないか」



それらは全て、


彼が私に、そうなることを──

円士郎の妻となることを──


望んでくれていた、その気持ちの欠片だった。
< 1,928 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop