恋口の切りかた
【円】
前回の登城から数日後──
そろそろ六月に入ろうかという五月の終わりのよく晴れた午後に、左馬允の命令で俺は再び城に向かった。
今度こそ剣の稽古につき合ってほしいとのことだった。
案内の者に連れられて城の中を稽古場へと向かう途中、見覚えのある人間と会った。
「おう、これはこれは円士郎殿」
相変わらず気怠そうな声にトロリとした眼。
菊田水右衛門である。
「今日は殿の剣術のお相手かな」
どうでも良さそうにそんなことを言って、菊田は時間が許すなら少しいいかと俺を城の庭に誘ってきた。
早めに着いたので、約束の時間まではまだあるが──
相手は、清十郎とグルになって青文を失脚させた男だ。
警戒が働いたが、このオッサンから俺に何か話があるというのも珍しい。
訝りつつも結局、好奇心に負けて、俺はこの魔窟の魔物について行くことにする。
案内役の侍が、困ったような顔をしながら俺たちを追いかけてきた。
「なに、別に重要な話があるというわけでもないが」と言いながら菊田は立木の間で足を止め、眠たそうな目で俺を見た。
「今の円士郎殿は──どこか、昔の己を見ているようだったのでな」
「ご冗談を」
俺は笑う。
この虚無の穴のような目をしたオッサンと自分が似ていると思ったことなどない。
「さて、どうかな」
菊田は口元を吊り上げるのさえも億劫そうに笑って、
「円士郎殿は、己がつまらぬ時代に生まれてきたと思ったことはないか?」
と、言った。
俺ははっとなる。