恋口の切りかた
思わず耳を疑った俺と、

真っ青になった案内役とを眺めて、


「いやいや、言ったであろ。

全て──ただの戯れ言だ」


鼻で笑ってそんな言葉を残して、菊田水右衛門は立ち去って行った。



菊田が何を考えて清十郎と手を組み、

どうして下克上の戦国の世の話などしたのか──


俺はある事実を思い出して、戦慄を覚えた。



菊田水右衛門は、先々代の殿の弟だ。

砂倉家の血を引かない今の殿様の左馬允とは違って、砂倉家で生まれた人間だ。



つまり菊田は、

自らがこの国の主君となることも可能な身分なのだ。



以前、藤岡が口にした内容が耳の奥でこだました。


下につく相手は優秀な人間か否かで選びたいと思っている。

それは『あらゆる意味で』だ。




あいつらの目的は、まさか──


浮かび上がったとんでもない可能性に、
俺は背筋が冷たくなるのを感じながら、菊田が去った方向を眺めていた。
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