恋口の切りかた
女のような華奢な体つきだが、左馬允は鏡神流の剛と柔を兼ね備えた剣をうまく使いこなしていた。

俺や留玖と互角とはゆかなくとも、さすがにあの親父殿から直接指南を受けてきただけある使い手だ。


しばし剣を交えて汗を流して、


「やはり晴蔵の子だ。俺とは才能が違うな」

運ばれてきた茶をすすって一息入れながら、左馬允は前と同じくだけた口調でそう言って嘆息した。

「晴蔵は何も言わないが──俺の伸びしろはもうない。よくわかったよ」

「あのなァ……」

人払いされて、あたりに他に人影がないことを確認してから、俺もまた以前のようにくだけた口調で口を開いた。

「自分でそうやって諦めたら、もう剣は伸びないぜ。
ま、俺も……他人から言われたことだけどな」

苦笑しつつ口にすると、左馬允は日差しに目を細めるような仕草で俺を見て微笑んだ。

「円士郎くらい若ければ、俺もそう思えるのかもしれないけどね」

「オイ! 若ければって──俺とあんたとは、年は一つしか違わねェだろうが」

菊田のオッサンからも若いと笑われたばかりで、本日二度も似たようなセリフを食らって俺は少しムキになる。

「まあ……そうなんだけれどね」とやんわり笑うこの殿様は、幼い頃からこの国を治めてきたが故の貫禄なのか──確かに俺と一つ違いとは思えない落ち着いた物腰で、数歳年上の相手と会話しているような気分になった。

クソ……俺が単にガキなのか?

これまで遊び続けてきた己と目の前の男との違いに俺が少しクサっていると、


「自分でもわかってるんだ。
武芸者としても、そしてこの国を治める主君としても──俺には才覚というものが足りない」


殿様である男はそんなことを言い出して──


否応なしに先刻の菊田の言葉が蘇り、思わず俺は目を見開いて左馬允の顔を見上げた。


「俺にはそんな器はない。
それは、口に出さないだけでそれは青文や晴蔵や──他の家臣たちもきっと気づいているよ」


左馬允はやはり柔らかく微笑したまま、諦めたような目でそう言った。


以前に会った時には気づかなかったが──

その目には──菊田の瞳の中にあったものと似た絶望の色が見えた気がして、俺は顔をしかめた。
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