恋口の切りかた
「前にね、同じ話を青文にもしたことがあるんだ」

「……青文に?」

「うん。そうしたら青文はね、それは自分も同じだという話をしてきたよ。
円士郎は、青文の槍の腕前を見たことがあるかい?」

「いや……」

唐突な話題に戸惑いながら、俺は首を横に振った。

「直接は一度もねえよ」

「そうか。それは──いつか二人が手合わせするところを見てみたいな。

俺は何度か目にしているが、無想流の免許皆伝者に相応しい、優れた武芸者だ。少なくとも俺の目にはそう見える。

けれどね、彼は──自分には武芸の才能というものはないと、キッパリそう言ったよ。

自分が免許皆伝を修めることができたのは才能ではなく、ただ一心に打ち込んだ結果でしかないと。

だから才能などというものを気にすることはない、主君たらんと一心に努めるならば、結果は後からついてくるものだとね」


そう語ってから、左馬允は悲しそうに笑った。


「でもね、俺は思うんだ。
才能がなくてもそこまで一心に物事に打ち込めるということは、それだけで既に才能だ。

やはり──俺は青文のようにもなれない」


俺は、金髪の友人の暗い過去を思い浮かべる。

左馬允は知らないだろうが、

もしも本人がそう語ったのであれば、青文を才なくして免許皆伝にまで上り詰めさせたものは、あの男の気質だろう。


家族に対する憎悪や復讐心が作り上げた──己の敵を何があっても排除しようとする妄執に似た性格は、敵をねじ伏せる部分では武芸とも通じるところがあるし、

目的のために手段を選ばず、努力を惜しまない苛烈な内面が可能にしたのだという気がする。

確かに他の人間が、青文のようになろうとしても──それは難しいかもしれない。


「俺がこの国を治めていられるのは、結局──晴蔵や青文のおかげさ。
彼らの力であって、俺の能力じゃない」


自嘲的にそう吐き捨てる左馬允の目にはやはり昏いものが滲んでいた。


「俺には、人の上に立つ器ってものがないんだよ。それは自分が一番よくわかっている」
< 1,938 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop