恋口の切りかた
「そうだな──」

俺は、俺から留玖を奪った男を睨みつけた。

「もしも下克上の戦国の世に生まれていたら、主君を討って女を取り戻すこともできたかもしれねえしな」

ぎょっとしたように、左馬允の表情が強ばって──


俺は吹き出した。


「冗談だよ。
そんな理由で謀反なんて起こすかよ。

言っただろ。俺の望みは、留玖の幸せだ。
そのためなら、命を懸けてこの国とあんたを守るってな」


それから、


「けどなァ、てめえ」


ホッとした様子を見せる左馬允を──俺は本気で睨んだ。


「グチはいい。

だが『自分は主君の器じゃない』『殿様になりたくもなかった』なんて弱音──主君なら、死んでも臣下の前で吐くんじゃねえよ」


左馬允が再び目を見開いた。


「それ、青文にも言ったんだろ。
てめえ、失望させんな……!」


視線に力を込めて、俺は左馬允を睨んだ。


「そんな主君に仕えたいと思う臣下がどこにいるんだよ。
今日は聞き流してやるが、俺も二度目は許さねえ」
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