恋口の切りかた
──冗談じゃねえぞ……!


ヒヤリとする。


まさに菊田のオッサンの不穏な発言を耳にしたばかりで、左馬允の口からもそんな気弱なセリフが飛び出すなど、本当にシャレになっていない。


「……そうだな──全く、円士郎の言うとおりだ。
すまなかった」


左馬允は心から恥じ入ったように奥歯を噛んで本気で謝ってきて、

俺は苦笑いした。


右も左もわからない九歳という年で殿様の座に着いて、
俺が遊んでいる間にも大人たちの中で生きてきたこの青年の孤独は想像できた。


「まァ、先法御三家はあんたの臣下じゃなくて、この国では客分だし。
俺でよければ、グチくらい聞いてやるからよ」

俺が言うと、左馬允は驚いた顔をして、それから目を細めて微笑んだ。

「ありがとう」

左馬允はクスッと笑った。

「円士郎は、聞いていた噂と全然違うな。
本当に──留玖が惚れるのがわかるよ」

その言葉にはズキリと鋭い痛みが胸に走ったが、俺は黙殺して「褒め言葉と受け取っておくぜ」と言って肩をすくめた。

「あんたは、青文やうちの親父の力で国を治めてるって言ったけどな、家臣に恵まれることも主君の才能だと思うぜ。
堂々としてりゃいいんだよ」

「そうか……そうだな」

左馬允は頷いて、

その表情がかげった。
< 1,942 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop