恋口の切りかた
二度とこの腕に抱くことはないと諦めた温もりを、再び手にできるとちらつかされて

甘い誘惑に大きく揺れて折れそうになる心を必死に保った。


「俺は──彼女の体が欲しいわけじゃない」

「そんなことはわかっている……! しかし留玖は……」

「やめろ……っ!」


俺は頭を押さえた。


「やめてくれ……」


背後で左馬允が黙り込んだ。


「それで、留玖が幸せになれるのか?」


きらきら笑う少女の姿は色あせない。


「俺は彼女を俺の正妻にして、生涯をかけて幸せにしてやりたかった」


簡単に忘れられるはずがない。

会いたくないはずがない。

彼女の声を聞きたいに決まっている。

もう一度この腕で抱きしめたいに決まっている──


「だが、俺の手で彼女を幸せにする道はもう断たれたんだ」


永遠に。


「今さら、そんな方法で留玖と結ばれることには、何の意味もない」


そうか、と呟く左馬允の声を背中に聞きながら、俺はその場を足早に立ち去った。

噛みしめた唇が破れて、血の味が口の中に広がった。
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