恋口の切りかた
あの場にいたのに、
私は彼のために何もできない……!


無力さに打ちひしがれ、涙を零している私に、
去り際、そっと父上が耳打ちした。

「留玖、儂はお前の証言は信頼の置けるものだと思っておる」

私は涙に滲んだ視界で父上を見上げた。

「だが──どうにもならんな」

父上の口からはそんな絶望的な言葉が飛び出して、

「どういう故あってあの場に円士郎の脇差しが残されたのか……いずれにせよ、あやつのこの失態は儂も許す気はない」

その厳しい口振りに、私は目の前が真っ暗になるような気がした。


「海野清十郎か……ふむ、伊羽殿を率先して失脚に追いやり、留玖を奥へと上げるよう強く薦めてきたという男だな」


父上は何事かを考えこむようにしてから、


「お前はその者の仕業だと言うが、だとして──円士郎もそれに気づくか?」

私にそう尋ねた。


私は、父上がどうしてそんな質問をしてきたのかわからなかった。


「気づくと、思います……」

「そうか。ならば──武士の情けだ。
円士郎には、己の誇りを守るための機会をやろう」


父上はそんなことを言って、

でもそれは、円士郎を身の破滅から救ってくれるという意味ではないことは、私にも想像できた。


「儂にしてやれるのは、もはやそれだけだ」
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