恋口の切りかた
「ただ奴を討ち取るだけじゃ、切腹させられた隼人の汚名を雪(すす)ぐことはできねえ。
何としても、清十郎が謀ったことだと明らかにしねえとな」

やがて俺は口を開いてそう言った。

「それに──家から謀反人を出した上、その俺が家老を斬殺して果てたんじゃあ……結城家や留玖までとんでもねえ目に遭うだろうが」

ククク……と、可笑しそうな笑い声が覆面の下から漏れた。

「いや、驚いたぜ。至極まっとうな判断もできるんじゃねェかい」

「てめ……本気で武士ってモンを何だと思って……つうか、俺を何だと思ってんだ!」

俺は憤慨して、

「俺に討っ手がさし向けられたとしても、普通、蟄居中の城代家老の屋敷に逃げ込んでるとは思わねえだろ」

ニヤリとする。

「加えて俺とお前は犬猿の仲ってことになってるしな。
おかげで、清十郎が俺たちの繋がりに気づいてても、公に立ち入ってここを調べるには理由がねえ。

何より──涸れ井戸の隠し通路が便利だしな。身を隠すならここだ」

「よくわかってるじゃねェか」

青文はケラケラと笑った。


クソ、褒められてるはずなんだが、なぜか小馬鹿にされてる気がするぞ……。


「しかし、ちょうど俺が戻って来た時だから良かったが──氷坂に調査に行くって言ったろうが。俺が留守だったらどうする気だったんだ?」

「その時は、亜鳥がいるだろ?」

俺が言うと、青文は嫌そうな調子になった。

「彼女を巻き込むな」

「もう巻き込まれてんだろうが。あんたの正妻って時点でな」

青文は「確かにな」と言って、覆面の下で小さく溜息を吐いた。

「亜鳥のためにも……俺もこのまま大人しくしているつもりはない」

青文はそんな頼もしい言葉を放って、

俺は今、こいつが味方だということに感謝した。

「操り屋に正式に依頼するぜ」

用心棒やら博打やらで溜め込んでいた金子を積み上げて、俺は覆面に隠された緑眼を見据えた。

「俺と隼人にかけられた謀反の嫌疑を晴らして、海野清十郎の所業を暴くのを手伝ってくれ」

「引き受けたぜ」

口の端を吊り上げているような気配で、裏街道に通じた御家老は頷いた。
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