恋口の切りかた
「それで……どうせ先のない身だ。あんたに聞きたいんだがよ」

俺は、清十郎に寝返った帯刀のことを思い浮かべた。

隼人は憤っていたが、
もしもあのまま俺の下役でありつづけていたら今頃、帯刀と神崎家も隼人と同じ末路を辿っていたかもしれないのだ。

俺はむしろホッとしていた。

「神崎帯刀のことだ」

「海野の側についたんだってな」

青文は冷ややかに言った。

こいつも──裏切りは許さない性格だよなァ。

苦笑しつつ、俺は気になっていたことを尋ねた。

「あんたならひょっとして知ってるんじゃねえか?
十年前──いや、正確にはもう十一年前か──帯刀の兄は、何があって俺の親父に切腹を命じられたんだ?」

青文はしばし考えこむかのように、沈黙した。

「隼人の調べによると、殿様の遠出中に何か粗相(そそう)があったらしいって話だったけど……」

「殿が、落馬してお怪我をなさったんだ」

「は?」

「だから──家来の不手際で、当時、九つだった幼い左馬允様が、落馬してお怪我をなさった」

「な──」


俺は絶句して、


「なんだそりゃ!?」


にわかに怒りが湧き起こるのを感じた。


「たったそれだけの理由で──ガキが一人怪我をしたってだけで──何人もの人間が切腹させられたってのか!?」
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