恋口の切りかた
「十一年前、一味は頭目の六郎太を失って壊滅の憂き目を見たが──六郎太には夜叉之助と羅刹丸という二人の子供がいた」

「ヤシャノスケとラセツマル……」

「目の前で父親の六郎太と弟の羅刹丸を殺されて、夜叉之助は一人行方を眩ませて生き延びたってのが、裏の世界に伝わってる話だ」

青文は淡々と語って、


「もしも氷坂家の目的がこの国の改易で、そのために奴が送り込まれたんなら、氷坂の家中は完全に奴とグルだ。

そこに『今の清十郎は別人ではないのか?』などと人相書きを持って回っても、家中の者が口を割るワケがなかったのさ。

だからあの後俺は、清十郎に子供を斬り殺されたという町人のもとを訪れたんだ。

ハッキリ証言がとれたぜ。

『清十郎はこんな顔ではない。赤の他人だ』ってな。

で、裏の世界に詳しい情報屋に人相書きを見せてみたら、
あっさり、闇鴉の一味の頭目だってわかった。

初めからそっちを当たってたほうが事は早かったってワケだな」


異人の血を引く元盗賊は笑いを漏らし、


「まァ、俺もまさか、一国の家老の座に盗賊の首領が納まってるとは思わなかったからねェ」


自分のことは完全に棚に上げた他人事の口調だった。
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