恋口の切りかた
清十郎──になりすました夜叉之助が、俺たち結城家の人間に向けてきた憎しみのこもった目の理由も、

国崩しの断蔵や、鎖鎌の兵衛たちのような、闇鴉と縁のある殺し屋と繋がっていた理由も、

これでようやく理解できた。


鎖鎌の兵衛から青文の正体を知らされたという話も、
得体の知れない輩が身の安全と引き替えに家老家に情報を流したわけではなく、元々グルだった──ということか。


「あの野郎……!」

俺は、奥歯をぎりっと鳴らして、


そもそもの事の発端とも言うべき、

十一年前の──闇鴉の一味と親父殿との一件を思い浮かべた。


「なあ、これもあんたなら知ってるか?
どうして十一年前、盗賊の征伐なんかにうちの親父がかり出されたんだ?」


俺の問いに対して、また青文は逡巡するかのように沈黙した。

……なんだ?

さっきからどうも、やたらとこういうのが多いな。


訝りつつも、

「これも隼人の調べてたことだが──町方には親父に協力して、一味を『捕まえろ』じゃなくて、一人残らず『討ち取れ』って命令が出てたらしいじゃねえか。

どうも妙だろ? あんた、理由を知らねえか?」

尋ねた俺に、

「……ああ、知ってるさ」

青文は低い声で答えた。

「元服前のガキだった俺が、当時の城代家老だった我が父上を通じて出した命令だからな」

「はあ!?」

俺は目を丸くして、


青文はまた何かを考えこむようにしてから、口を開いた。


「当時、この国で『あってはならない失態』があったのさ」
< 1,995 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop