恋口の切りかた
「ああ。お前も、母上から近づくなってきつく言われてんだろ?」


俺は鼻を鳴らした。

雪丸の母、と呼ぶより──
俺からしてみりゃ、あれは、


親父殿の女──だった。


どう見ても「母」には見えず、「女」に見える生き物だ。


「うちの離れにいる、りつ殿は──ありゃ親父の妾(めかけ)だしな」

「おりつ様……」


留玖は、雨音にかき消されそうな声でそうつぶやき、


俺はすっかり冷めてしまったタライの湯に浸かったまま、大きなクシャミをして──



結局



その日から彼女は女の着物を着ることをかたくなに拒み続け、

母上もとうとう根負けして

留玖は稽古の時のような男の格好で過ごすようになった。


これがまた違和感なくよく似合っていたので


留玖の顔を知らない来客などは皆、
彼女を少年だと思いこみ、
俺の弟か、などときいてきた。
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