恋口の切りかた
「な──何を言っておる!?」

殿が、動こうとしない周囲の家臣と、にやにや笑いを浮かべた清十郎とを見比べて、愕然とした声を出して、

「左馬允様、あなた様はご自身を、この国の主君として本当に相応しい御仁とお思いか?」

清十郎は、対照的に落ち着き払った様子で言った。

「奸臣である伊羽青文に好き勝手な行いを許し、
守り役の結城晴蔵の言いなりに動き──あなたはただの傀儡(かいらい)だ」

「馬鹿な!
青文も晴蔵も私を支えて、これまでこの国のために尽力してくれた家臣だ!」

いつもは穏やかな殿が大声を上げた。

「私は己を彼らの傀儡だなどと思ったことは一度としてない……!」

「果たして本当にそう言い切れますかなァ?」

清十郎は冷笑を崩さずに続けた。

「殿の留守中に伊羽青文は勝手に税を吊り上げ、我々が対応せねば危うく国内の反乱を招くような失策をとり、」

「それは海野、青文ではなくお前たちが……」

「更には、寝所に侵入して刃を向けるなどという家臣の謀反を招いた──この責任をとって、あなたは砂倉家当主の座から降り、もっと相応しい御方にこの国の主君の役目を譲って、ここで隠居することにした」

朗々と語る清十郎を凝視して、殿は言葉を失ったように立ち尽くした。

「それが……貴様の筋書きか……!」

やがて、殿の口から震える声が漏れて、

ククク、と清十郎が邪悪に笑った。

「税を引き上げて実際に国内で反乱が起きていれば、あなたの責任を追及するには完璧でしたがね」

冷ややかに放たれたその言葉を聞いて、


私はようやく、これまでの行動に隠されていた清十郎の信じがたい目論見を知った。


全てはこのためだったの……?

殿を、この国の主君の座から追い落とすために──
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