恋口の切りかた
五、女郎花
【剣】
りつ様について、母上の奈津様の口から聞くことはあまりなかった。
漣太郎など、周囲の話からなんとなく、
離れにその人がいること、
母上はその人のことをあまり好ましく思っていなくて、
だから漣太郎や平司、そして私には
離れに近づくなと言いつけているのだということ、
りつ様が幼い雪丸の母親であり、
父上の妾なのだということは
察しがついた。
そして、結城家でしばらく暮らすうち
父上が時々、りつ様のことを
「有明(ありあけ)」
と──、
他の者が呼ぶ名とは違う、
不思議な呼び方をすることにも、私は気がついていた。