恋口の切りかた
「捕縛しろ」ではなく、

「斬れ」だった。


突然のとんでもない当主命令に、私たちは思わず顔を見合わせた。

もちろん、漣太郎も平司も元服前の身だ。


「父上」
と、困惑した顔で口を開いたのは平司だった。

「いかに罪人と言えども、その……屋敷に入り込んでいたくらいで、私たちで斬って捨てるのは……」


めちゃくちゃな気がした。


私には父上の考えていることがまるでわからなかったが──


しかし結城晴蔵は淡々と、

「その者は、いずれ人殺しのかどで死罪となる罪人だ。
屋敷内に入り込んだのを討ちとっても──武家の中のことだ、結城家の力をもってすればどうとでもなる」

などと言い、


どこか冷徹で獰猛な──
獣のような──

そんな目で続けた。


「斬った後のことは儂のほうでうまくやってやる」


私は

切捨御免(きりすてごめん)の特権がご公儀(こうぎ)によって認められ、無礼討ちという行為がまかり通る武士という身分がどういうものなのか……

村にいたころ、みんながお侍をおそれていた理由をひさしぶりに思い出した。



それから父上は

いつものようにアゴをごりごりとこすりながら、
その漣太郎と平司の二人を見た。


「特に──漣太郎、平司。お前たちだ」
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