恋口の切りかた
別宅を後にして、
海野家の屋敷へと向かいながら、


「本物の青文さん……?」


私は隣を走る覆面家老に恐る恐る尋ねた。

くすっと笑う気配がして、「はい」と普段の遊水の声が答えた。


「奴らが煙幕を張った瞬間、与一と入れ替わりました。
与一には逃げた奴らを追わせてます」


そう教えてくれて、青文は

「与一もまた、円士郎様のことは気に入ってるみてェだからな」

と小さく漏らした。


「渡世人の世界にもけじめってのはあるが、
それでもたかだか脇差し一本の責任で切腹なんざ、納得できねえと言ってやしたよ。

理解できないもののために、円士郎様を死なせたくはないと」


それは私が思ったのと同じことだった。


「秋山や神崎や──そして、さっきの場にいた侍たち、
殿も、晴蔵様も、

武家の連中はみんな、円士郎様のお覚悟を潔しと認めて、彼の死を受け入れるのでしょうがね……」


青文は、「は!」と鼻で笑った。


「おつるぎ様、
与一も、俺も、あなたと同じですよ。
そんなもの、認めねえ……!

あの人は、この俺を駆け引きなしに友人だと言ってくれた、ただ一人の御仁だ」


覆面に隠されて見えない表情で青文はそう言って、

私の胸に熱いものが広がった。


「俺やおつるぎ様のような、純粋な武家の人間ではない者が
円士郎様と出会っておそばにいたことに、何か意味があったと──思いたいじゃないですか」
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